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鎮魂
著作:藤 秋人

 日は既に暮れていたし、通りには誰もいない。そんな寂しい風景の中、少女は一人で歩いている。行く当ても無いまま、暗くどこまで続くかも知らずに。辿り付く先は何処だろう。答えは、誰も知らない。

 

 長山葉子の遺書が見つかったのは、彼女が自らの命を絶って三日後の出来事である。

 遺書の中身は単純にして明快なものであった。曰く、

『人生に疲れ、知友もすくない、よって生きているだけ無利益である。明日に希望すら抱けない現実界に別れを告げる』

 だ、そうで。もっともこれは随分と省略してあるもので、原文はいかにも遺書ですよ、なんて感じの文体。且つ、長い。
 新聞・テレビは高校二年と言う彼女の年齢や、かつて援助交際を行っていたと言う事を取り上げ、現代日本に於る倫理、或いは教育に過剰な程の批判を声高に叫んだが、結果ともいえばお茶の間に一時の話題を提供するに終った。

 では、もっと葉子の死に敏感なはずの学校の生徒・教員はどうだろう。

 例の如く、追悼集会が実施され一通りお涙頂戴を演じた挙句、それっきり。
 もはや彼女の死を本気で哀しみ続ける者は親族、それもごく一部だった訳で。

 彼女と同じクラスの生徒にとって、彼女は埋没した一人であって、涙を流す理由があるならばそれは『死』そのものに対する悲しみや、恐れ。

 よって一ヶ月も経てば、彼らの記憶に葉子の名前はない。集団はその恒常性を保つ為に死んだ者を忘れると言う。もっともそれは動物の世界の話で、人間は違うと思いたい。しかし、集団…とくに学級集団は意外に薄情なものだ。

 

 皆、忘れ去っていた。クラスメートが自殺したこと、長山葉子が死んだこと。

 

 だからこそ、クラスに籍を置く中野圭也にとっても 「そこ」 は居心地の良い場所だった。彼女が死んだ当初こそ、とりとめない恐怖や、夜突然現れる哀しみに苦しんだ。だが 「教室」 と言う空間がゆっくりと彼女の面影を消して行く。それが決して最初から薄いものだとしても…だ。だからこそ、彼は平穏な日々に戻ることが出来、一年と言う月日は、さながら矢のように過ぎていった。

 

 

 衝動は唐突にやって来た。体育の授業中、或いは夕暮れの公園…。まず「あり得ない」出来事にやきもきする感覚が。まるで一陣の風のように。

 中野圭也を襲った。それはちょうど、彼女が死んで季節が一巡したあくる日の出来事だった。 彼は幻覚に似た奇妙な既視感に襲われる。それは何となしに自分が 『死んでしまう』 ことであり、死に行く自分の隣で 「あり得ない」 死神の姿を見る。その都度どうしても思い出してしまう。一人の人間の終わりを。

 それはいつも埋没していた。いや、独立していたのかもしれない。
 そして、忘れられた。まるで最初からそこにいなかったかのように。

「そうしたら、俺も…忘れられるのか」

 呟く。自分可愛さの涙が月明かりに照らされた彼の枕に染みて行く。
 それは静かな授業中彼を襲い、それは友人と話している時にボディーブローを掛ける。圭也達は昨日のテレビドラマの話をしている。毎週金曜、夜十時。一人だけ話についていけない奴がいた。そんな時、自分はそいつを忘れてる。

 衝動は、彼の存在に気付いてしまった時。
 たまらない位の悲しみが湧きあがる。
 何故だろう…何故…。
 それからも、圭也を襲う 「何か」 は一向に衰えない。むしろ、勢いを増している。それが決定的になったのは木曜日。

 いつもの会話。他愛の無い、仲間内での話。不意に一人が切り出した。

「ラストで主人公が死ぬ…ねぇ。…あぁ、死んだといえば、んぅんと…ほら、なんつった
っけ。そう、長山って奴いたじゃね ?」

 圭也はその苗字から彼女だと確信し、話の波に呑まれんと次の一言を発そうとしたが、

「あ?誰、それ」

 仲間の一人が何食わぬ顔で言う。本当に忘れきってしまった顔。
 涙が溢れそうになる。駄目だ…。

「わりぃ俺、午後の授業フケるわ !」

 立ち上がり、鞄を持つのももどかしく圭也は走る。
 遠くから教室のざわめきが聞こえる。走る圭也を見て咎める中年教師の怒鳴り声。それら雑多の中から彼女の名前は聞こえなかった。

 

 長山葉子と言う、此処にいた女子生徒の名前は。

 

 当時圭也にとって長山葉子は一種、嫌悪感の対象でもあった。

 彼女は際立っていた。誰とも話さず、誰とも馴れ合わず、そして彼女自身の見た目、なおかつ振る舞いは大いに存在感を際立たせるものであったから。だから、女子からも男子からも無視された。無視したのは圭也も同じだった。
 さらに言えば、彼は葉子が孤立するきっかけを作った。些細な噂を立てて、彼女をさらに深い孤独に突き落としたことさえ、ある。

 圭也はそんな事を思い出していた。自宅の自室。ベッドの中。さて、そうして彼女を陥れた功績として、圭也はもてはやされた。彼が 「汚れ役」 として働いた見返りに、群れは市民権を与えた。おかげで圭也は今の今まで上手くクラスの中にいた。過去に彼女から好意的に話し掛けられたと言う汚名を帳消しにしてもらって。

「けど…それの何処が悪いって言うんだ?…第一、俺と長山、比べるだけ馬鹿らしい。本質的に違うだろ。今の俺に自殺する理由なんて… 」

 あるのだろうか。

 明日の事を考える。好奇の目で見られ、友人からは馬鹿にされ、きっと一人になる。進路も決まって、親友もいて、でも。

 

 教室ではきっと一人だろう。

 

 翌日、登校して意外な展開に驚きを隠せなかった。友人は相変わらず陽気に語りかけ、クラスはいつもどおり。何も変ってなかった。

「変だって。思わないか ?」
「どうして ?」

 親友が聞き返す。

「フケたんだろ ?」

 圭也の神妙な面持ちに彼は首を傾げる。放課後、彼が部活を終え圭也の相談に乗ったのはそれから約五時間後、夕方。

「第一、 長山とオマエは関係ないだろぉ。そんな事で悩んでたのか」

 彼はケラケラと笑った。

「そうだよな、無関係もいいところだよな。俺、どうかしてたわ。馬鹿だね、俺」

 と、圭也も笑い飛ばす。

 他愛の無い話にまた興じ、冗談を交わす。親友は帰り、誰もいない教室に圭也だけが残る。ふと、去年まで長山が座っていた机を見る。窓側の一番後ろ、近寄ってその机にそっと手を触れる。夕日のオレンジが窓辺を等しく強く照らす。一方で忍び寄る廊下側の薄暗さ。

 そう言えば。と、圭也は思い出す。当時所属していた部活の帰り、教室には長山がいてずっと窓の外を見ていた。頬杖をついたまま。一回だけ聞いた事があったような…そんな気がする。 「何が見える」 と。

 彼女は答えない。唯、時間だけが過ぎてゆき、教室の陰影が濃くなって行く。

 それは紅い夕焼けに包まれた、放課後の教室での出来事だった。
 そして、今そんな情景の中。圭也は外を見つめる。窓の向こうに日々が見える。行き交う人々、どこかに向かう車。そして、教室には自分がいる。
 それもまた、紅い夕焼けに包まれた、放課後の教室での出来事だった。

 

 

 その夜、ベッドに寝そべりながら文庫本を読んでいた。ただ、それだけ。夢中になって読む、つまらなそうに読む。そうでは無く、漠然と文庫本を読んでいた。圭也自身、どうして手元に滑り込んできたか理解できない文庫は、退屈かと思いきや面白く、そうと思った瞬間くだらなく感じてしまう。そんな本だった。もちろんそんな代物なので、およそ成り行きで読んでいるにすぎない。

 読み進める内に眠気を覚え、時計を見る。
 針は夜中の三時を少しと言った調子だ。これはいけない。そう思い、文庫をしまい込み、部屋の明かりを落とす。布団を被って目を閉じる。
 彼は深い、そう…深い眠りに落ちていった。意識が睡魔に浸かる数秒、夕暮れの教室が頭をよぎった。

 

 夢を見ている。彼は、夕暮れ時の教室にいた。窓から差し込む痛いくらいの夕日。窓側、一番後ろの席に女子が一人。紙に向かってシャープペンを走らせる。

 これは夢だ。そう彼は思う。
 だが、彼はこの女子の顔に見覚えがある。クラス替え以来、一向に馴染もうとしない女…確か名前は…長山葉子。染めたとしか思えないうっすらブラウンがかった髪、そしてそんな髪の色に到底馴染みそうにも無い眼鏡。一転、しっかりと校則に従った服装。常に一人で行動する彼女に、クラスメートは冷たく接した。そのくせ、本人は剣呑…気にする素振りも無い。よってクラスの厄介者と称され、喋れば 「ハズシ」 を食らう。

 早く帰ろう。
 これは夢だ…彼は確信する。
 何故だろう、彼女の一挙一動が気になる。
 彼は立ち尽くしていた。ずっと、彼女をみていた。
 彼は思い出した。これは事実だ。自分はこうしていたんだ。
 消し去ったはずの記憶。 「あり得ない」 過去。
 夢の中でいくつかの日がたったらしい。
 これはあの日だ。

 いつものように彼は葉子を見ていた。教壇の上に立ち尽くし、ぼんやりと。

  視線に気がついたのか、彼女が彼を見る。まっすぐな瞳。無関心・無感動とはどこか違う、眼差しが彼を射る。

 つと、彼…いや、圭也は思い出す。そう、これは過去。「あり得ない」訳ではない。実際に体験した事…汚点。

 彼は思い出す。夢の自分を追い越すように。

 確か、この後彼女は自分に問い掛けてくる。『私に何か用。』と。そして自分はこう答える。 『なんとなく』
 しかし、彼女の口は開かない。どころか、立ち上がる。圭也に向かってゆっくりと歩く。表情はうかがいしれない。手にはペンを持って。ゆっくり、歩幅を広げて、迷うことなく。

 何故だろう。圭也は不意に外を眺める。光の都合なのか自分自身の姿が映る。それは当時の自分ではなかった。一年後の、今の自分。それが、酷く怯えて立ち尽くしている。声が聞こえる。

 

「圭也…」

 

 

 翌日、学校に行った途端、彼はまたも意外なクラスメートの反応を目の当たりにする。
 自分を好奇の目で見つめる女子。挨拶を無視する友人。そして、どこからともなく聞こえる、誹謗・中傷の声。
 いつものグループの輪には親友がいる。そんな彼は自分の方を見て笑っている。
 その日から、彼は一人になった。

 

 そして、夢を見る。日を追うごとにそれは現実味を帯びてくる。
 今日も長山葉子は近づいてくる。そして、いつもどおり圭也を呼ぶ。
 その日はついに夢の中の圭也は振り返った。
 夕焼けの教室に死体があった。真っ赤に染まった長山葉子と、それを照らす…夕日。
 声が聞こえる。
 自分を呼ぶ声。
 それは確かにいつか聞いた声。恐怖。
 教室にはクラスメートがいつの間にか雑談に興じている。夕暮れの教室には不自然な蛍光灯の灯りが煌々と降り注ぐ。

 圭也は手当たり次第に声を掛ける。
 だが、誰も気にしない。相手にしない。声が聞こえる。

「中野の奴、セイシンビョーだってな…」
「圭也の奴…」

 そして、背後から聞こえる足音。

 

 夢から覚めれば、朝がそこにある。圭也はどうしようも無い無力感に襲われながら登校する。そして、教室ではやはり一人なのだ。

 ざわめき、笑い声、元・友人達の雑談。圭也は何もすることがない。
 もう誰も気にもしない。
 四日欠席した圭也の机。山積みのリント、散らかしっぱなしのゴミ。
 そして、周囲から漏れるひそひそ声。

 また、彼は夢を見る。そして恐怖し、悲しみ、怯え、絶望する。
 もう沢山だ。そう、圭也は思った。逃げ出したい。ここから、出たい。
 背後から迫る長山から逃れようと、夕方の学校を走る。
 開いている扉に飛び込んだ。

『視聴覚室』

 そこがたどり着いた場所だった。この空間は廊下や教室に溢れていた夕日と言う物が見当たらない。
 窓にカーテンが引かれていて、それがこの空間の薄暗さを保持するのに一役買っていることは明白だった。
 机が並んでいる。その最前列に一人の少女が座っている。顔を伏せて泣いていた。

 そうだ。

 あれはいつだったろう。
 彼は必死で記憶を探る。

 クラス替えの前の年、これもまた放課後の事だ。視聴覚室にたまたま寄った。その時に見知らぬ女子が泣いていた。親切なのか偽善なのか、とにかく自分はその娘を慰めた。

 それだけの話だ。
 やはり、彼女の肩は震え、時々すすり泣くような…そう、嗚咽が漏れる。
 彼女の周囲に千切られた紙が散らばっていた。何が書いてあるのかは、圭也の目には映らない。

「圭也…」

 名前を呼ばれる。何故か圭也は彼女の元へと、歩く。導かれるように。誰か知れない少女に呼び捨てにされたのに、不思議に悪い気がしない。

 何かに吸い寄せられるように彼女を抱き締めていた。記憶が甦る。これも、事実だ。
 柔らかい体温、それが圭也に伝わる。それは夕暮れの教室で長山葉子と対峙した時の熱いようで冷たい、さながら生と死の境界にも似た感覚とはまるで違う。

 とてつもなく、心地よいものだった。
 これが、このキモチを愛情…いや恋と言うのだろうか。抱き締められた少女はされるがまま。何一つとして語ろうとしない。彼は彼女の口唇に自らのそれを重ねた。

 その時だ、教室のドアが開く音がしたのは。

 バラバラになっていたパズルのピースがぴたりとはまった。
 長い夢から醒めた彼は全てを思い出し、そして泣いた。
 夢の中で。

 彼女はあの娘で
 新しい教室でずっと自分を見ていて
 疎ましいから
 忘れていた自分は彼女を陥れようと思った
 あの教室で
 彼女は………

 

 

 声にならない叫びと共に跳ね起きる。
 彼は自分のベッドにいた。あの夕暮れ、いつかの抱擁と今、彼の心を締め付ける後悔が…あの光景が頭に焼き付いている。夢、夢だと考えたかった。もし、現実なら…いや現実だからこそ、耐えられない。自分が殺した、いや消し去った人間が、一番最初に愛した人間だと、どうして認められるだろう。

 これから、どう過ごせばいいのだろう。教室で一人、背後には死んだ筈の彼女が所在なく座っているような、そんな非現実的妄想に耐えればいいのだろうか。

 たった一人で。何かに怯えながら。

 結局、彼は学校に行かなかった。そして、初めて考えることにした。自分と他人、友情や愛情について。彼には漠然とした予感があった。これらの事はいつまで経っても答えなど、出しようが無い事。

 だが、十八歳と言う年齢が彼のそうした諦めを許しはしなかった。例えばそれは悪夢の再体験であったり、或いは未だ妥協を許したくない過去の過ちに他ならなかった。

 

 

 圭也は最終的に、かなりの期間学校を休んだ。彼の携帯電話は一回も鳴らなかった。教室にある自分の机にプリントの山が出来ていて、そこには誰もいない。但し、椅子が消えている。探せば、何てことは無い。女子が隣の友人と喋るのに使っていただけ。彼女は彼に気付くなり、気まずそうに 『ごめんね』 と言って椅子を戻した。彼はそれが不快に思えた。

 そして、再び圭也を輪に加えた友人達もまた、彼を不快にさせた。いつものように話す。話題は今度は音楽番組に出ていたシンガーのアレコレだったが、話が噛みあわない。自分も見ていたのに、彼等のそれに交じり合わない。それを口にすれば彼らは答える。

「だってオメーいなかったじゃん」

 と。疎外感を感じずにはいられなかった。

 授業中でさえも彼はそれを感じる。出席を取る時、教師は自分を呼ばない。ようやく彼に気付いた教師が言う。

「中野、いるならキチンと言わないと。気付かないんだから」

 帰って来た教室に彼の居場所はなくなっていた。そして、そんな状態がひたすら続いた。友人が減り、次第に中野圭也と言う存在自体がクラスの中で薄れていく。そして彼はまた夢を見る。そして、後悔に涙を流した。

 そんな事の繰り返しはさながら、未来のようだった。
 その度、彼は少女を、視聴覚室の少女を抱き締める。誰よりも不安を覚える自分を安定させる温もりを。強い絆を、愛情を。揺らぐことの無い、何かを。

 

 そして、夢は終る。唐突な出来事だ。
 少女自ら名乗ったのだ。
 彼女の名前は長山葉子といった。
 少女は言う。

「私は、圭也君のことが、好きなの」

 それは初めて聞いた長山の声だった。その声は恥じらい上ずってこそいたが、綺麗な澄んだ声だった。これが、あの長山なのだろうか。自分が噂まで流して蹴落とし、卑下し、時に傷つけた人間が…。

 ふと気付く。自分自身を。今や教室から見捨てられた自分は元々、そんな人間だったろうか。違う。では、長山にも、いや…彼女にもそんな一面があったのではないだろうか。

 

 夕暮れ時の教室。あの時、彼女は自分に何かを言い出そうとしていたのではなかろうか。例えば、夢で語る少女――長山葉子のように。

 

 素っ気無く答えた自分は戸惑っていた。その時の自分を、集団としての一人としてではなく、一人の人間を完全に否定したように、彼女には写ったのだろう。更に自分を卑下する噂まで立てられた。その痛みを今の彼は知っている。そう、知っていたのだ。

 当時から彼女が自分に好意を持っている事など。自分にとって集団から外れることは、あってはならない事、だから流した。
 噂を、流言を。

 ひどく印象の強い娘だった。いつも彼女の行動に目を凝らした。興味の奥にいつの間にか芽生えかけたほのかな温もり。気付いた時、それはいつも手遅れだ。そう、今も。

 そんな人を心を自分を全て、自分で壊してしまった。全てを。

 また朝が来る。後悔だけではない。涙だけがこぼれる。彼はまた学校に行かなかった。一年以上会っていないクラスメートに会いにいった。クラスメートは小さくなっていた。急に、もう見る事のなくなった夢と、あの日。夕暮れの二人を思い出した。もう二度と聞くことの出来ない、本当のあの言葉の先。

 写真だけが柔和に微笑み、時の歩みを止めている。彼は四ヶ月後、十九になる。

 例えようの無い喪失感と堪えることの出来ない悲しみが襲う。涙が次々と頬を伝い、クラスメートの記憶が鮮明になる。

 やはりあの時、彼女は頬を染めていた。無愛想な口調の中に戸惑いと不安が隠れていた事………知っていたのに。

 

 二度と訪れない未来。止まってしまった瞬間。捕らえどころのない永遠。全てを包み湧
きあがる悲しみ、そして………

 

 失うを想う、とこしえにも似た、鎮魂。

 

 

 圭也はゆっくりと口を開いた。

「今、俺は葉子のことが好きなんだ。正直、あの日から」

 圭也が夢の中で少女と再会出来たかどうか……知る者は、だれもいない。

 

《終》